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2025.05.14

フィリピン庶民の移動手段 フィリピンの交通事情

マニラ首都圏では現在、日本の援助で地下鉄の工事が着々と進められています。これまでフィリピンには実際に街に住んでいる人以外の人が、簡便に利用できる交通機関はほとんどと言っていいほどありませんでした。特に外国人にとっては、信頼できる筋で手配された乗用車で移動する以外の選択肢はなかったのです。それが近い将来に大きく変わろうとしている、そんな予感の中、交通事情にちなんだ個人的な思い出を集めてみました。

 

LRT ライト・レール・トランジット

 

LRTは外国人が比較的違和感なく乗ることができた、唯一の交通機関かもしれません。トラムやモノレールのような軌道上を走る軽量小型の電車です。しかし日中の空いている時間帯はともかく、通勤ラッシュの混雑時の乗り降り口付近は文字通りの押しくらまんじゅうになります。満員の客車から降りようとする人と、何とか中に乗り込もうとする人の押し合いへし合いが車両到着のたびに繰り広げられます。自分はプラットフォームの最先端に立って待っていたのに、到着した電車にどうしても自分の体をねじこむことができませんでした。何度目かの挑戦の末、切符を買って乗ったその駅からそのまま出てこざるを得なかった時の敗北感は忘れられません。

 

 

 

ジプニー

 

今ほど手軽に映像情報が手に入らなかった頃、フィリピンに関する報道の背後に流れる資料映像と言えば、決まってジプニーで渋滞した車道でした。街の顔と言ってもいいほどの知名度にもかかわらず、日常的に利用している生活圏以外の人が乗ることはあまりありません。ルートも運賃もわかりづらく、見知らぬ場所に行くのには適さないからです。料金は後ろから乗った客が前のほうに手渡しで運転手まで届けてもらいます。降りる時は天井をコンコンと叩き、大きな声で「パーラー(止めて)」と告げます。現在は禁止されているそうですが、満席の時に現地の若者がするように後ろに立ったまましがみついて、結構な距離を移動したことがあります。ちょっと地元民に近づけたようで嬉しかったのを覚えています。危険ですので真似はしないでください。

 

タクシー

 

料金が比較的安く、単独で行動することがあまりないフィリピン人にとっては、タクシーは日本と比べてずっと身近な存在です。ですがメーターを下ろそうとしない運転手も多いので、料金交渉は覚悟しなければなりません。当然値ごろ感を知らないと話になりません。100ペソでもいいところを100ドルと吹っ掛ける相手に、大抵のよそ者は太刀打ちできないでしょう。ただ私自身はそれほど不愉快な思いをしたことがないばかりか、まだ携帯電話が大変高価だった頃の忘れ難い思い出があります。助手席にいた自分は目的地でタクシーを降りてから、電話機をダッシュボード上に置き忘れてしまったことに気付いたのです。急いで同僚に電話をかけてもらったところ、事情を理解した運転手はなんと翌日に会社まで届けてくれました。帰ろうと事務所をあとにする彼を慌てて呼び止め、ささやかながら謝礼を手渡しました。

 

路線バス

 

通勤時間のバスはひどく混みあい、停留所も客が並んで待つ列もありません。目当てのバスが来たら瞬時に駆け寄り、減速しかかったそれに飛び乗らなければなりません。乗った際に降りる場所を告げ、車掌から切符を買いますが、その時に土地勘がない場合は目当ての場所で下ろしてくれと頼んでおく必要があります。ただし油断は禁物で、車掌は切符売りで忙しいのですぐに頼まれたことを忘れます。最初に頼んだのに通り過ぎてはるか彼方に来てしまってから、どうして教えてくれなかった?と抗議したところで後の祭りです。

 

トライシクル

 

簡単に言えばオートバイに括りつけた屋根付きサイドカーに乗れるだけたくさんの乗客を乗せ、行きたいところまでどこへでも連れて行ってくれる乗り物です。小雨であったため屋根付きのサイドカー内にいた自分は、後から来た女性客に席を譲り、外部の運転手の後部席に移りました(フィリピンでは割と普通)。ところが雨で見通しが悪かったためか、対向車に衝突された私は露出した右足の骨を折る大けがを負うことに。被害は自分だけだったようで、運転手は救急病院へのタクシーに乗りこんだ私に「俺のせいじゃないからね」と言い残し、走り去っていきました。

 

バイクタクシー

 

筆者は利用したことはありませんが、近年利用者を増やしているのがバイクタクシーです。渋滞した車のスキを縫うように走るオートバイの後ろには、出勤する勤め人たちが乗っています。アプリで予約すれば、所定の場所にユニホームを身にまとったバイカーが乗り付けます。ヘルメットを借り受け、ドライバーの後ろにまたがったら目的地まで一直線です。

 

グラブカー

 

日本の配車アプリに似ていますが、タクシーだけではなく自家用車や高級車の選択ができます。望めば他の乗客との乗り合い(割安になります)もできる、この新しい移動手段は都市部ではすでに広く普及し、完全に生活の一部となっています。乗車前から目的地までの運賃がわかり、一定の身元保証をされた運転手によるサービスが期待できることから、着実に支持を広げています。支払いもオンライン決済が主流ですので現金の持ち合わせが少なくとも心配いりません。師走のある日、帰宅ラッシュ時でどうしてもタクシーが捕まらない時、グラブカープレミアムに空きを発見、やってきたのは漆黒の大型車で帰宅費も大型になりました。

 

まとめ

 

全マニラ住民が待ち望んでいる地下鉄がついに開業し、それが時刻表通りに運航されるようになれば、先述したような難易度の高い交通機関が過去のものになっていくのかもしれません。この革新的移動手段の変化はやがてフィリピン人の生活、時間感覚、人生観すら変えていくのではないかと、今から想像をたくましくしています。

執筆者 上村康成 From TDGI東京オフィス