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2025.06.03

【2025年版】フィリピン人ドライバーが特定技能で働くには?運転免許制度と自動車運転文化の違いを徹底解説

 

特定技能枠で働く外国人運転手

 

2024年3月から特定技能制度の一環として、外国人が日本国内でトラック運送業、タクシー運送業、バス運送業の運転手として就労することが認められるようになりました。人手不足が深刻な現場では、将来の職場の担い手として外国人の採用が検討され始めています。日本という異国に全くなじみのない外国人が、車両の運転だけではなく、物流サービスの一環としての作業も求められます。これには言葉の壁や文化の違いなど、様々な課題が伴いますが、大きな期待も寄せられています。

日本人と相性の良いとされるフィリピン人の運転手たちにも活躍の場が訪れるかもしれません。
フィリピン在住のフィリピン人運転手が特定技能で日本の運転手として働くためには、フィリピンで取得した運転免許証を日本の免許証に切り替える「外免切替」の手続きを行う必要があります。フィリピンはジュネーブ条約に加盟しており、この条約に基づいた書式である限りにおいて、フィリピンで発行された国際運転免許証は日本でも有効です。ただし、フィリピンで発行された国際運転免許証は、日本で一時的に運転することは可能ですが、長期的な就労には対応していません。

それでは フィリピン人運転手たちはどんな運転免許証を持っているのでしょうか。

 

フィリピンの運転免許制度

 

フィリピンの運転免許証は、フィリピン運輸省傘下の陸運局(Land Transportation Office: LTO)が管轄、発行しており、一般的な免許証(Non-professional license) と商用(Professional License)を目的とした免許証の二つに分けられます。乗客を乗せる場合や、公共交通機関の運転手、運送業務に携わるには商用免許が必要です。大まかな制限は以下の通りです。

 

 取得年齢運転歴運転できる車種
一般免許17歳以上なし普通自動車、総重量3.5トン未満の車両
商用免許18歳以上1年以上総重量3.5トン以上の車両、 商用車、トラック、バス、タクシー等

 

さらに商用免許には運転できる車種を細かく特定する区分けが存在します。

 

 対象車両用途
A1三輪商用車*トライシクル
B1軽自動車、旅客車両タクシー、バン、*ジープニー
B2軽量商用車小型トラック、バン
C重量商用車ゴミ収集車、コンテナ車、消防車など
D重量旅客車、重量車両大型旅客バス、クレーン、ダンプなど
BE軽量特殊車両軽量牽引車、トレーラー
CE重量特殊車両大型貨物者、大型牽引車

 

これらのカテゴリーは2020年に新しく定められたため、それ以前に定められていたカテゴリーとの対照表が設けられています。

 

*トライシクル/ジープニー いずれも庶民の足として利用されています。トライシクルはオートバイにサイドカーをつけたもの、ジープニーはジープの荷台を改造して乗客が乗れるようにしたものです。

 

 

運転免許取得と更新手続き

 

フィリピンには大小の自動車教習所がありますが、広い敷地内に一般道を模した練習用道路がある日本のそれとはだいぶ趣を異にしています。日本では学科と教習所敷地内での運転訓練が終わり、仮免許を取得した後、路上で運転技術を学ぶ という段階を踏みます。しかしフィリピンでは15時間の座学研修を修了後、Student Permit(仮免許にあたります)を申請取得してから、教官を同席させてとはいえ、いきなり公道で実地の運転訓練を開始することになります。 仮免許は1年間有効で16歳から取得できますが、18歳未満の場合は親の承認が必要です。教習所が交通の激しい道路に面している場合、生まれて初めてハンドルを握る初心者が、いきなり車を動かし始めるのはなかなかの度胸が要ります。出来るだけ車通りの少ない地域に移動して、運転操作を学んでいきます。無事に取得出来た暁に、最初に発行される免許証の有効期限は5年間です。
同じカテゴリーの商用免許に切り替えるには、所定の理論研修を受ける必要があります。違反行為があった場合は、違反の軽重によって罰金納付からの経過日数が定められています。一定期間の安全運転の履行が求められているわけです。
運転免許証の更新は有効期間内もしくは失効後2年以内で、心身ともに健康な状態であり、かつ罰金未納の違反行為がなければ、追加の理論研修や試験は求められません。更新後の有効期限は10年間です。失効してから2年が経過してしまった場合は、オンラインで受講するテストを、80%の正答率でパスしなければなりません。 25の設問のうち5つ誤答すると不合格です。しかしながら、この試験は時間制限もなく無料で何度でも受験することが出来る上、不合格であった場合でもその場で正解を確認することが出来るため、数回繰り返しているうちに誰もが合格することができます。振り落とすための試験では無く、簡単な基礎知識を確認させるために便宜上試験の形をとっているものと思われます。

 

違反行為への罰金について

 

フィリピンで運転経験のある人は、荒い運転をする人が多いと感じたのではないでしょうか。急な車線変更や渋滞中の無理な割り込みは日常茶飯事。親切に道を譲ってばかりいるといつまでたっても前進できません。その国それぞれの運転マナーがあると考えるべきなのでしょう。それでは実際に交通違反を犯した場合に課される罰金は、どのくらいなのでしょう。主な違反についてまとめてみました。

 

違反行為罰金(ペソ)
免許証不携帯3,000  
無謀運転 初回2,000  
     2回目3,000  
     3回目10,000  
違法駐車1,000~
信号無視1,000
飲酒運転 人身事故を含まない20,000-80,000
     人身事故含む100,000‐200,000
     死亡事故含む300,000-500,000

*1,000ペソ=2,590円(2025年5月現在)

 

飲酒運転について

 

上記のように飲酒運転には厳罰が課されます。どんなに取り締まりを強化しても一向に減少する兆しが見えない飲酒と違法薬物摂取に起因した悲惨な交通事故から市民を守るために、アキノ政権下の2013年に法制化されました。交通違反に遭遇した交通取締官は、飲酒が疑われる運転手に対して以下のテストをすると定められています。

1.左右に移動させたペン先などを目で追わせて、きちんと追うことが出来るか 

2.ふらつくことなくまっすぐに9歩進んだ後、折り返し元の地点に戻ることが出来るか 

3.片足でふらつかずに30秒たっていられるか 

この3つのテストを不合格になった場合、飲酒検知機による検査を受けなければならないことになっています。

 

まとめ

 

タクシーでの移動中のことです。急な車線変更を交通整理員に見咎められ、一時停止を求められた運転手は「客(筆者)は医師で、一刻を争う急病人のところに駆け付けるところなんだ」と出鱈目な言い訳をしたところ、それなら急げと無罪放免。とっさの共犯者にさせられた私は、よくも真っ赤な嘘が出たものだと呆れると同時に、それを真に受けた交通整理員の素直さに言葉にしがたい感慨を受けました。
日本とは全く異なる環境で日々運転に従事しているフィリピンのプロドライバーたち。日本での運転は、交通ルールや運転マナーが厳格であり、特に安全運転が重視されます。フィリピンのドライバーたちが日本で働く際には、これらのルールを理解し、順守することが求められます。企業側も、彼らがスムーズに業務に適応できるよう、日本語の研修や交通法規の講習を提供することが重要です。彼らの 日本での臨機応変な安全運転に期待します。また、今後労働者を送り出す側であるフィリピン政府がどのような制度を設計し、それがいつ公表されるのかを注視していきたいと思います。

執筆者 上村康成 From TDGI東京オフィス